【読書録】ヒート-ペースメーカーの意義を問う一冊

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ヒート

「堂場瞬一さん著『ヒート』を読んで」

この記事ではそんなことをつらつらと書いてみました。

世界記録を「作る」ことは可能か?

「ヒート」は、箱根駅伝が舞台の「チーム」などトップランナーの走りをテーマにした小説を多く書く堂場瞬一さんの作品。県知事肝入りのレースとして、横浜発着の「東海道マラソン」の開催を公務員が指示されるところから始まります。

この東海道マラソンは普通のレースではなく、「世界記録を日本人に出させるためのレース」。そのために、コース設定や選手の選定、ペースメーカーの育成に至るまで湯水のようにお金を使い、舞台を整えていきます。

発刊された時点では、既に日本人が世界記録を出すことはまずないと考えられていたので、設定はなかなか厳しくはあります。ただ、選手の心理描写や走りの描き方はスポーツに造詣の深い作者が書いているだけあって面白いですよ。

登場人物が魅力的

「ヒート」は3人を主人公にし、それぞれの視点から描かれていきます

一人は東海道マラソンの全体責任者、音無太志。自身も箱根駅伝を走った過去を持ちます。そして、日本記録保持者であり、東海道マラソンで世界記録を狙わせるためにあの手この手でレースに引っ張り出されるかわいそうな山城悟。最後に、この物語のキーマンであるペースメーカーの甲本剛です。

三人の心理描写が多く、感情移入しながら読みやすいのが特徴。また、「チーム」を読了している場合には、前作の登場人物がちょいちょい現れるのも嬉しいです。ちょっとだけラッキーな気持ちになりました。

作られたレースに抵抗するエースランナー

日本記録保持者の山城は自分のリズムを大切にする男。それを無理やり崩して東海道マラソンに引っ張り出そうと大人たちが奔走します。山城が「とんでもない頑固者」のように描かれているけど、出たくない大会に強引に誘われ続けるのはホントめんどくさいだろうな、と思うシーンも多々。トップランナーにこんなことしたらヤバいだろ…っていう感じもあります。まぁ、結局ウルトラCを使って出場させるのですが。

レース当日も東海道マラソンが「作られたレース」であることに違和感を持ち、疑問を抱えながら走り続けます。

レース中も葛藤するペースメーカーを描く

ペースメーカーである甲本はハーフマラソンの元日本記録保持者だったが、度重なるチームの解散などの不運により、朝4時起きで働きながらなんとか練習を重ねる苦労人。物語序盤では選手でなくペースメーカーとして走ることへの葛藤に苦しみます。後半では、レース中に芽生えたマラソンへの愛着など劇的に変化を遂げる自身の内面にも困惑しながら、自分なりの結論を出していく様が爽快ですよ。

「ランナーとは何か」について書いた小説は多いですが、「ペースメーカー」に着目した小説は滅多にないので新鮮な気分で読めました。

数行でわかる、山城の人間力

前作の「チーム」にしても「ヒート」にしても、作中99%でとんでもないヤツとして描かれている山城が、人間味を現す瞬間にグイッともっていかれる。作者の思いがほとばしる数行を読み進めている時が読書の醍醐味だなーといつも思います。

山城の思考に何度も登場する「マラソン本来の姿」「ペースメーカーへの疑問」は現代マラソンでも多様な意見があるところ。ランニングではなく、競技としてのマラソンを考えたいときにもおすすめの本です。

 

 

 

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